3.東洋医学的鍼灸治療

 当院で行なっている花粉症に対する鍼灸治療は、鼻汁・鼻詰まり・目のかゆみなどの原因である鼻粘膜や結膜の炎症を治す治療(標治法)と、全身の生命力を強化する治療(本治法)の2つの方法で行なっております。顔の治療ですから、敏感な人には鍼を使わずに金属の棒でツボを圧迫する程度の治療をします。鍼治療は、細い鍼で1mm程度しか入りませんので、痛くありません。
 もちろん、当院で使用する鍼は、全て完全滅菌されたものを使用し、使用後は廃棄します。一回限りの使い捨てです。使用する鍼は完全滅菌で一回限り使い捨てのもの、また使用済み鍼は必ず直ぐに専用の医療廃棄物処理ボックスに捨て、専門の業者に委託して処分しております。さらに患者さんの治療部位、私達鍼灸師の手指、その他の医療器具は入念な消毒を行ない、枕カバーも交換しておりますので、感染症の心配は全くありません。当院は「鍼灸院の安全基準」を満たしている施術所として以下のURLに登録しております。
(http://www.harikyu.com/guidance/index.html)
 顔だけを刺激する局所治療でも鼻や目の症状は楽になりますが、治療効果の持続時間が短く、十分な処置とは言えません。そこで、自然治癒力を高める為の全身治療が必要になってくる訳で、この目的で行なう鍼灸治療を東洋医学では「本治法」と呼んでいます。これは、主に肘から先、膝から先のツボを使って行ないますが、患者さんからは「鼻が悪いのになぜ手のツボに鍼治療をするのですか?」というような質問を受けることが多いので、その理由を以下紹介します。
 全身には1年の日数と同じ365のツボがあります。これは、それぞれがバラバラに点在するのではなく、臓腑のグループごとに線上のラインに存在し、この線の事を「経絡」と呼んでいます。花粉症に最も関連のある肺・大腸の経絡を簡単に紹介しておきます。


 この図の様に体表のツボと内臓が、相互に連絡を取り、体の内外を出入りしながら全身を1周します。
(字数に限りがありますので、胃経以下の順路は以下の循環図で省略させて頂きます。)


肺 → 大 腸 → 胃 → 脾 → 心
↑                 ↓
肝                  小 腸
↑                  ↓
胆←三 焦←心 包← 腎 ← 膀 胱

 ですから、体表面のツボに鍼灸や指圧の刺激を行うことによって、内臓の機能低下や高ぶりを調整する事ができるのです。それによって、大きく呼吸が出来るようになったり、胃腸の機能が活発になりますので、疲労回復や気力低下などに良く効きます。
 そして、上の図のような繋がりがありますから、例えば肺→大腸に病があった場合、他のルートからエネルギーを借りてきて修復しようとする働きがあります。その結果、他の臓腑も歪みを生じますので、それもまた鍼灸や指圧で調整するのです。但し、鍼灸やマッサージでは内臓の形に表れた病変は治す事が難しいので、専門医への受診も併用することを考えて下さい。
 また、上の循環図では心包・三焦など聞いたことのない臓器の名前が出てきます。その事について解説します。
まず心包ですが、簡単に言えば心臓の補佐役的な臓器です。三焦は全ての臓器を統括する器官で現在の自律神経に似たような働きをしています。東洋医学の臓器は現在皆さんが知っているものとは少し異なりまして、例えば「脾臓」は現在の肝臓と膵臓の働きを意味しておりますし、腎臓は尿を作るだけではなく生殖作用にも深く関わっています。肺臓に関しては現在の臓器とほぼ同じものと受止めて下さい。
 東洋医学の全身治療である本治法をご理解頂くために、もう1つ「陰陽五行理論」をご紹介します。
まず、診察をするうえで重要な「五行理論」ですが、これは身体の事ばかりではなくて、暦を見ると「きのえ・きのと」などと書かれているように、全ての諸現象を五つに分類しております。私達が患者さんの診療を進めていく上で参考になっている「五行の色体表」という分類された内容を紹介しましょう。


五行
五臓
心包
五腑 小腸
三焦
大腸 膀胱
五根
五液
(よだれ)
鼻汁
五主 血脈 肌肉 皮膚
五変 うわ言 しゃっくり ふるえ
五支
五志 憂思 恐驚
五精 意智
(はく)
精志
五情
五季 土用
五能
五方 中央 西
五刻
五畜
五役
五色
五香 油臭い 生臭い
五声
(なく)

(うめく)
五味


 この表の「五志」・「五精」・「五情」の行をご覧頂くとわかるように、東洋医学では三千年もの前であっても、性格分類やストレスに注目していたことが分かります。また、私達が患者さんを診察していて肝臓や胆嚢の経絡に異常があったり、医師の診察で肝臓・胆嚢の病気を指摘されている事を知った時に、眼の具合はどうか?特に涙が出たり眼が乾いたりしていないか?ふくらはぎが痙攣したり、握力の低下や顔面マヒなど、筋の症状はないか?爪の色や形・縦横の線が入っていないか?などをチェックします。ですから、患者さんの立場でもこの五臓の色体表を縦読みしてご自分の体調や体質と照らし合わせてみて下さい。そして、あなたの体質や病状と合致しているようなものがあれば、それを手がかりに、より精度の高い診療ができますのでご報告下さい。

一方、陰陽理論ですが、これは主に治療方針を立てるときに使います。例えば、筋肉が病的に緊張していれば(収縮)それを緩め、筋力が低下していれば(弛緩)適度の緊張を与えるような治療をします。また、身体の上半身が熱していれば、その熱を下半身に下げる治療もできます。面白いことに、左に痛みがあるものを全く苦痛のない右に鍼治療をすることで治す事も可能です。

以下、陰と陽の比較表を紹介しますので参考にして下さい。
収縮 弛緩
太陽
後面 前面
精神 肉体
変わり易い 変わりにくい
退
午前 午後
春・夏 秋・冬
成長 老化

これらの他にも体質や病状に応じて西洋医学的な自律神経や免疫学的な考え方も導入し、幅広い視点から全身治療を行なっております。


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